08 3月 ジェラルド・ヴァトラン Gérald Vatrin
ジェラルド・ヴァトランはナンシー生まれで、アール・ヌーヴォー発祥の地であるこの町で、かの有名なナンシー派から受け継がれてきた花模様をあしらった装飾の影響を強く受けています。 新たなインスピレーションを求めて、ジェラルド・ヴァトランはアフリカやオーストラリアを訪れ、動物のモチーフ、幾何学形態のほか、民族集団やアボリジニから着想を得たレパートリーを発展させました。
ガラスの特殊性と複雑さや液体から固体への神秘的な変化に魅了されたジェラルド・ヴァトランの作品は、吹きガラスの技術を用い、手作業で制作されたあと、彫刻、エナメル、パーツの追加やガラスのくり抜き加工などにより美しく仕上げられます。作品のアイデンティティは大陸を跨いだ交配から生まれ出ます。作品はジェラルド・ヴァトランの旅や、素材へのこだわりを共有するさまざまな文化との出会いを反映しています。
2020年のこと、ジェラルド・ヴァトランは、欧州ガラス研究・研修センター(CERFAV)とのコラボレーションにより、アール・ヌーヴォーの代表的建築のひとつ、マジョレル邸(Villa Majorelle)の修復に参加しました。また、ガラス工芸ブランド《ドーム(Daum)》のためにガラスペーストによる限定エディションも発表しています。ジェラルド・ヴァトランの作品は、ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)、装飾芸術美術館(パリ)や石川県立伝統産業工芸館(金沢)などに収蔵されています。
《バンブー・ガラス》
ヴィラ九条山におけるジェラルド・ヴァトランのプロジェクトは、2018年から2019年にかけてパリのケ・ブランリー美術館で開催された「Fendre l’air(空を割く 日本の竹工芸)」展から着想を得たもの。この展覧会を通して、ジェラルド・ヴァトランは気高く、耐久性に優れ、威厳を備えたエコロジカルな素材である竹を知ることになりました。この素材の特性を知るにつけ、日本でも最大級の竹林を有し、竹工芸を専門とするアーティストも多い関西地方おいて竹による創作を学ぶことが当然のことと思われました。
ヴィラ九条山でのジェラルド・ヴァトランのアプローチは、自らのガラス作品と組み合わせるために竹工芸の技術を習得するものとなります。日本の哲学との触れ合いを求め、そこから創作の基盤を導き出したいと考えています。それは、彼が人生そのものの歩みであると考えているアーティストとしての歩みに新たな息吹を与える刷新の機会となります。
新たな創作において、ジェラルド・ヴァトランはガラスと竹という素材のコントラスト、2つの文化のコントラストを明らかにすることで、程良いバランスを実現し、日仏の文化が交差する地点を示したいと考えています。