30 9月 ヨアン・グルメル&エロディ・ロワイエ Yoann Gourmel et Elodie Royer

ヨアン・グルメルは1980年生まれで、芸術普及活動とコミュニケーションを学んだあと、レンヌ大学でキュレーターの養成教育を受けました。エロディ・ロワイエは1980年生まれで、大学で 映画を学んだあと、文化資源エンジニアリングを学び、選択科目として展示関連職と美術史を選びました。その後、パリ=ソルボンヌ大学で現代美術を専攻し、キュレーターの養成教育を受けました。

ギャラリー《GB Agency》で一緒に働いたあと、ヨアン・グルメルとエロディ・ロワイエは2007年から共同で仕事をしています。2人の最初の展覧会『220 jours/220日』は、展覧会を巡り歩きであり、実験的提案であると捉えたキュレーションの仕事の端緒となりました。2010年には、イタリアのベルガモ近現代美術館(GAMeC )で『The Crystal Hypothesis/クリスタルの仮説』展のキュレーターを務め、2011年から2013年にかけてはパリの現代アートセンター《ル・プラトー》で4つの展覧会の連続企画を担当しました。
2011年1月から6月にかけてのヴィラ九条山滞在時、ヨアン・グルメルとエロディ・ロワイエは「もののあわれ」を巡るリサーチ活動を行いました。この日本の文学的・美的概念は、フランス語では「le sentiment des choses(モノの感じ方)」とでも訳せるものです。このコンセプトに照らし合わせ、2人は1950年代から70年代のコンセプチュアル・アートやパフォーマンスと結びついた日本人アーティストに関心を寄せることになりました。そして、日本滞在中に出会ったグループ「プレイ」と協力関係を結び、その記録誌『The Play, Big Book』の再版を実現させました。

ヴィラ九条山での滞在は、イル・ド・フランス地方現代美術基金(FRAC)の展示スペース《ル・プラトー》での一連の展覧会の発端ともなり、中でも2012年の企画展『Le Mont Fuji n’existe pas/富士山は存在しない』がその良い例となっています。

インタビュー:ヨアン・グルメル&エロディ・ロワイエ

2015 年4月

 

日本に来た時、日本の文化や特に現代アートシーンについては、どれくらい知っていましたか? ヴィラ九条山での6ヶ月間の仕事はどのように進みましたか?

レジデンス期間中、私たちは「もののあわれ」について研究し、現代美術におけるいくつかの手法を考察・分析するためのコンセプチュアルなツールとして、この概念を用いようと試みました。「もののあわれ」とはフランス語では「le sentiment des choses(ものの感じ取り方)」とでも訳せるもので、物事に触れる時に私たちの心に生じる感情こそが物事の本質を知るための唯一の手段だとする考え方です。したがって、「モノの核心」はモノが私たちに呼び起こす感情を通してしか知り得ないことになります。

このテーマについて翻訳されている数少ない研究書に当たったり、特に日本で、アーティスト、美術評論家やキュレーターと議論したりする内に、私たちが美的コンセプトと考えていたものは、主体と客体との所与の状況における出会いにおいてしか存在しない、漠然とした感情へと徐々に姿を変えていきました。そういう意味では、美術作品と行うことのできる経験に似通っています。完成され、不変のものとなったイメージやオブジェに基づく作品概念とは逆に、「もののあわれ」は本質的に移り変わり、やがては滅びる、儚いものを大切にしています。 こうした意味では、芸術は外在するオブジェ(絵画、彫刻など)の中に具現されるのではなく、ある時点の特別な状況において生まれた儚い感情の中にこそ存在しているのです。

こうした感情と照らし合わせて、私たちは1950年代から70年代にかけての、特にコンセプチュアル・アートやパフォーマンス・アートと結びついた日本のアーティストやグループについてリサーチを行いました。つまり、プレイ、もの派、実験工房、ハイレッド・センター、高松次郎、塩見允枝子などです。それと同時に、木村友紀や島袋道浩などの現代アーティストも研究しました。こうしたリサーチは何人かのアーティストのインタビューの形を取り、彼らとは今もコンタクトを保っています。美術史家の富井玲子のテキストも重要なものでした。これと並行して、日本で決定的な体験をしたジェームス・リー・バイアーズ や ブルーノ・ムナーリと言った まったくかけ離れたアーティストにも興味を抱きました。

レジデンス期間中、私たちはフランスやその他の国のアーティストとの連絡(手紙、イメージやオブジェの送付)を通してこのリサーチの記録を行いました。

 

グループ「プレイ」のメンバーたち記録誌『The Play, Big Book』を作ることになった経緯は?

私たちが「プレイ」の仕事を初めて見たのは、2011年に大阪の国立国際美術館で開催されたグループ展『風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから』の時でした。何人かのメンバーにお会いし、私たちがパリで準備していた展覧会に参加してもらうため、招待することを決めました。

彼らの記録誌を復刻し、今日までの彼らの行為の記録も付け加えるという考えが出てきたのは、その後、これらの本をグラフィックデザイナーのコリーヌ・スニエとシャルル・マゼに見せた時のことです。私たちは「プレイ」についての論考を彼らの雑誌「△⋔☼」に何回か連載しました。この雑誌は今もインターネットのサイト <o> future <o>で続けられています。コリーヌとシャルルは、日本以外ではほとんど見つけることのできない2冊の本の復刻を考えることを私たちに提案しました。「プレイ」と相談し、私たちはこの2冊の本を、その特徴(フォーマット、レイアウトなど)を残したまま、1冊にまとめ、2014年までの彼らの仕事の記録も盛り込むことにしました。その結果、全800ページに近い『Big Book』は1967年から2014年に到る「プレイ」の全活動記録となりました。

 

アートスペース「ル・プラトー」で4つの企画展のキュレーターを務められています。この連続企画は、日本滞在からどんな影響を受けましたか?

日本で行ったリサーチ活動やこれに伴う出会いは、今も私たちのプロジェクトにとって発想源となっています。その好例と言えるのが、イル・ド・フランス地方現代美術基金(FRAC)の展示スペース「ル・プラトー」で2011年から2013年にかけて行った4つの企画展です。2011年に開催された最初の展覧会「Le Sentiment des choses/もののあわれ」も2012年の『Le Mont Fuji n’existe pas/富士山は存在しない』も、日本で仕事をした時期と密接に結びつたものでした。

『富士山は存在しない』は、富士山は日本のどこからでも見えるという言い伝えを出発点としていました。ヴィラ九条山でのレジデンス時、私たちは何度かこの仮説を確認しようとしました。富士山は東京に行く新幹線の窓から見えると言われました。天気が良ければ、東京のいくつかのビルの上層階からでも見えるとも言われました。また、富士五湖に行けば見逃すことはないとか、これこれの電車、これこれの船やロープウェーに乗れば、絶対に見えるとか。でも、私たちは富士山を一度も見ることができませんでした。富士山をじっくりと眺めるという体験は、毎回、濃い霧の層に隠されてしまいました。そして、デッサンや写真や彫刻によって描き出された、さらに分厚い層に取って代わられました。つまり、浮世絵やポスターや絵葉書に描かれた富士山、枯山水において、レストランのメニューや紙幣に複製された富士山です。実体験に代えて、富士山の永遠で象徴的な存在が伝説を確認することになりました。富士山は日本のどこからでも見ることができるのです。どこからでもで見えると同時に見えないのです。つまりは、富士山は存在しないとも言える訳です。

この逆説的な断定は、作品との関係をプロセスとして、共有される実体験として重視している世代も国籍も様々なアーティストたちと仕事をし、議論をする上で、ひとつの手懸りとなりました。流行りや「芸術的」なオブジェを作り出す必要性を超えた、絶えず動き続けるアートとの関係が、この展覧会の核心をなすものでした。あらゆる気取りや見せびらかしを超えたところにある慎み深いアート。つまり、作品化や発表を超えた次元で、日常的に進められる行為に重点を置いたアートです。究極の目的など持たない美術作品は、そのオブジェの中、その体験や思い出の中など、どこにでもあると同時にどこにもないものなのです。この展覧会のオープニングに当たっては、1969年7月20日に京都と大阪の間で初めて行われた「プレイ」の行為《現代美術の流れ》をセーヌ川で再現しました。

レジデント LES RESIDENTS


ジョルジュ・アインツ

オンドレイ・アダーメク

オリヴィエ・アダン

フィリップ・アダン

アン・アパトゥライ

カトリーヌ・アベカシス

ヤン・アペリ

リュック・アラス

リュシー・アルボン

マルティーヌ・アルレ

ヤン・アレグレ

ミシェル・アンリツィ

フランソワ・イフレール&パスカル・ミュータン

ダニエル・ヴァルラヴァンス

ピエール・ヴァンクレール

ダヴィッド・ヴァンパク

ジゼル・ヴィエンヌ

グザヴィエ・ヴェイラン

ヤッセン・ヴォデニチャロフ

オルネラ・ヴォルプシ

マリア=ドナタ・ウルソ&ヴォルフ・カ

ヴァンサン・エゲリックス

クロード・エステーブ

トゥアミ・エナードル

ジャン=リュック・エルヴェ

パスカル・オジェ

ライナー・オルデンドルフ

ピエール・ガイエフスキ

ラフィ・カイゼール

ジュディット・カエン

カミーユ・ド・カザビアンカ

ナタリー・ガシェ

ヤン・カシル

ジャン=フランソワ・カブロ

パトリック・カユザック

ディディエ・ガラス

サンドリヌ・ガルビュギリヤ&ステファン・フェランデス

クリスチアン・ギオン&パトリック・ナドー

エマニュエル・ギベール

キャンプラン&フロランス・ドレアク=スタドレル

チボー・キュイッセ

セリーヌ・キュリオル

マーク・クチュリエ

アンドレ・クナイブ

ディディエ・グリ

フランソワ・クリストフ

カトリーヌ・グルー

ヨアン・グルメル

パトリック・グレゴワール

エレーヌ・ド・クレシー

ニコラ・ド・クレシー

エリザベス・クレスヴァー

ビルータ・クレスリング

アラン・ゴーサン

コジアック : ジェラルディン・コジアック

ピエール・ゴノール

マジェナ・コムスタ

セバスチャン・コルドレアニ&フランク・フォンタナ

ロラン・コロン

ドミニク・ゴンザレス=フォステール

オリヴィエ・サイヤール

ザヴェン・パレ

エリック・サダン

ヴァレリオ・サニカンドロ

サンティアゴ・サンペレ

アニエス・ジアール

ルノー・ジアン

クロード・シェスティエール

エリック・ジェルマン

ヴァレリー・シグワード

クレール=メラニー・シニュベール

ピエール・ジネール

クリスチアン・ジャカール

ミシェル・シャトネ

アンヌ=ジェームス・シャトン

ダニエル・ジャヌトー

カトリーヌ・ジャミ

イサベル・ジャリ

ピエール・シャルパン

ニコラ・ジャンコッヴィッグ

ロラン・ジューベール

ミゲル・シュバリエ

ヴェロニク・ジュマール

マルティーヌ・ジュリアン

ベルナール・ジョイステン

シルヴァン・ショヴォー

イヴ・ショリス

ティエリー・ジラール

ファビアン・ジロー

ヤヌシュ・ステガ

ジュヌヴエーヴ・ステファンソン

オスカー・ストラスノイ

モルガン・スポルテス

マリ・セステール

ジャン=マルク・ゼルワー@フランチェスカ・ラチュアダ

ソニア・クロンルンド

アントワヌ・ダガタ

マルク・ダシー

リジア・ディアス

ロール・ティキシエ

ジャック=フランク・デジョアーニ

マルク・デネイエ

カスパー・テプリッツ

ジェローム・デュヴァル

イザベル・デュトワ

イサベル・デュピュイ

ベルトラン・デュブドー

エリック・デュラントー

アニエス・デル アモ

ドゥニ・デルクール

ラン・デルピエール

ディディエ・テロン

マチュー・ドーズ

ジャン=フィリップ・トゥーサン

クラウディア・トゥリオッジ

ヴィオレーヌ・ドナデロ

モーリス・ドラスティエ

ヴィルジニー・ドラノワ

ヴァンサン・トルジュマン

ラダン=シャロク・ナデリ

レミ・ニコラ

ナターシャ・ニジク

パトリック・ヌー

エロディ・ヌーリガ

ジルベール・ヌノ

シャルル=アンドレ・ヌブレット

シルヴィー・ネラル

ドミニク・ノゲーズ

メラニー・パヴィ&イドゥリッサ・ギロ

エミリー・ハナック

ロラン・パリアント

ミュリエル・バルベリ

アルメル・バロー

ラシム・ビイクリ

クリスティーヌ・ビュシ=グリュックスマン

オリヴィエ・ブーシュロン

ダヴィッド・フーリエ

エリック・ファイ

ニコラ・フィエヴェ

ジャン=シャルル・フィトゥッシ

フローラン・フェラバン

ピエール・フォール

アブバカール・フォファナ

マイデール・フォルチュネ&ロイック・セロ

フィリップ・フォレスト

マーク・プティジャン

ロランス・ブラバン

ファブリス・プランケット

ヴェロニック・ブランドー

グザヴィエ・ブリヤ

ジャン=バティスト・ブリュアン&‘マリア・スッパンガロ

セシル・プルースト

クリストフ・ブルグデュ

ジェローム・ブルベス

ロラン・フレクスナー

リザ・ブレスネール

パル・フレナック

アンヌ・フレミー

フィリップ・フレリング

ジュリー・ブロック=ペブルリー

ジャン=ポール アンドシュ・プロデル

ブノワ・ブロワザ

ブルーノ・ベイヤン

ディディエ・ベザス

ベブ・デオム

ルーカス・ヘムレブ

アレクサンドル・ペリゴ

ネストール・ペルカル

イザベル・ベルテ=ボンデ

イヴ・ベロルジェ

マレック・ベンスマイル

カトリーヌ・ボーグラン

パスカル・ボース

エリック・ボードレール

ヴァンサン・ボーラン

シャルル・ボヴェ

フロランス・ボスト

アントナン・ポトスキ

ボリス・ティッソ

ジョエル・ボルゲス

フレデリック・ポレ

ジェラール・ボワダン

フレデリック・ボワレ

アンドレ・ボン

フィリップ・ボンナン

エリック・マイエ

ブノワ・マイヤール

フィリップ・マヌリ

ジャン=フランソワ・マラムッド

フィリップ・マリニグ

ローラン・マルタン

ロランス・マルタン

グザヴィエ・マルテル

ピエール・マルフェット

ミエ・コカンポ & ジェローム・アンドリュー

レティシア・ミクレス

フランク・ミケレッティ

セリーヌ・ミナール

グザヴィエ・ムーラン

ヴァレリー・ムレジェン&ベルトラン・シェフェール

ジュリアン・メール

アガット・メイ

エリック・メジル

クリスティーヌ・メヌソン

マチュー・メルシエ

クリスティアン・メルリオ

ウジェーヌ・ド・モンタランベール

エマニュエル・ユイン

ピエール=アラン・ユベール

ピエール・ラ・ポリス

ティエリー・ラヴァサール

マリオン・ラヴァル=ジャンテ&ブノワ・マンジャン

ファブリス・ラヴェル=シャピュイ

ナディア・ラウロ@ジェニファー・レイシー

ピエール・ラバ

フィリップ・ラム

エリック・ラムルー&エラ・ファトゥミ

フィリップ・ラルー

アセーヌ・ラルビ

リュック・ラング

ギヨーム・ラングル

グザヴィエ・ランブール

パスカル・ランベール

アラン・リゴー&サチー・ノロ

ジュリオ・リシネール

フロランス・リプスキー

ナディン・リボ

ユベール・リュコ

ル・ジャンティ・ギャルソン

トマ・ルヴェルディ

ヴェロニック・ルジャンドル

ジャン=ミシェル・ルトゥリエ

オリヴィエ・ルノー

ナディーヌ・レール

ジョエル・レアンドル

ブリジット・レメーヌ

マルティーヌ・ロカテリ

ジョゼ マニュエル・ロペス ロペス

フィリップ・ワイズベッカー

馬場法子